ドイツの朝は早い。 それは工場の稼動のことで,8時前には工場は動きはじめている。陽の昇る時刻は、といえば東京の方がはるかに早い。東京だとこの季節5時前に日が昇る。トロッシンゲンでは6時ころと少し遅い。その分、夜の時間がおそく始まる。とっぷり暮れるのが9時ころである。
渡されたHOHNERの工場通行証を電磁チェッカーにいれること2回。広大な工場の一番奥まった通用口から中に入る。入れば正面にMORINOの最終組み立てラインがあり、隣が私のお世話になるアコーディオンの検品・調律ヤードである。 初日は、やはり少し緊張するものだ。何しろドイツ語はほとんどしゃべれない。急ごしらえのドイツ会話は習ったものの、すんなり出てこない。これから2週間、お世話になる仲間にあいさつをする。誰もにこやかに笑顔で目をあわせる。「おや、意外に年配の日本人がきたな」と思っているかどうか。そんなときは、「グーテン・モルゲン」といいながら強く握手をすればたいがいこと足りる。便利である。
初日の課業は工場の全貌を知ること、要人の方へのあいさつのあと、工場の出入りのルール、社員食堂の使い方、別ヤードに移動するときの電磁カードの使い方などをまず教わる。 まず工場である。実に巨大な工場だ。やや長方形だが、一辺300メートルはゆうにあろうか。東京ビッグサイトにある東西ホールの西館全体よりも大きいにちがいない。 「まるでメッセ・ゲレンデだね。ここでメッセをやったら便利でいいね」と案内のファウゼル部長さんに軽口をいう。 製品の材料ヤードから、木工工作ヤード、金属部品製作ヤード、表面仕上げ・セルロイド、塗装ヤードさらに楽器組み立てヤードと整然と区画されている。私が居座る予定の完成品検査ヤード、調律ヤード。これは工程の最後尾になる。ガラスで区切った調律ルームが4つあって、さらに工場の製造管理のオフィスが連続して続いている。 GOLAの組み立てヤードも左手前に独立している。2人の専門技術者がいる。 工場全体からいえば、ハーモニカ工場の面積がアコーディオン工場よりまさっている。ここも工程に添って、区画され稼動している。オートメーションでできる部分も多く、アコーディオンよりより工業的工場風景である。 工場管理部門は2階にある。HOHNER全ての商品の1品目7万点になるという膨大な部品データがマスターコンピューターで管理されている。そういえば私が修理した数十台のHOHNERも、部品の共通性では他のメーカー、とくにイタリアメーカーとは明らかに違っていたことを思い出した。「地球の対極にある中国工場でもこのコンピューターデーターを変更しないと、現場ではネジ1ケも変えることは不可能です」と主任のトーマスが最新のモデルのCAD(キャド:コンピュータ設計ソフト)を巧妙にあやつりながら説明してくれた。 使い込んだ楽器がところ狭しと並んだリペアールームはちょうど私の工房を巨大にしたようだった。部品が、半完成品があっちにも、こっとにもある。 部品やユーザーフォローをするアフターサービス部も隣接している。