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2008年10月31日: MORINOへGOLAへ   ~ 音づくりの旅2008年6月 ドイツ NO3

ここドイツといえば、HOHNER(ホーナー)である。ドイツ3大メーカー、ダイムラーベンツと並び称されてきたHOHNERはドイツの人々が自分のアイデンティティを感じるメーカーである。

 100有余年GOLA(ゴラ)やMORINO(モリノ)をはじめ多くの名機が作られてきた。第二次大戦の前には同じドイツのクリンゲンタールでアコーディオンを製造していた時期もあったが、東西ドイツの分離により、ここトロッシンゲンにハーモニカとあわせ集約された歴史をもつ。このトロッシンゲンHOHNER1社だけで最盛期には5000人の従業員を擁し盛況を極めたという。作られる製品はよく規格化され、精度が高く品質が安定している。評価は世界中に定着してきている。街の楽器がオーケストラで弾く楽器、音楽の演奏用の楽器に格上げされたのはこのHOHNER社の努力と技術に負うところが大きい。

○アコーディオンの故郷  ドイツ
 アコーディオンはドイツで生まれた楽器である。1828年ハンブルグの楽器職人のフリードリッヒ・ブッシュマンがハンドエリオーネという小型の楽器を作り、歴史が始まった。彼の楽器は調律用「道具」でまだ楽器とは呼べないものだったらしい。翌年、彼の意をうけた職人チャールズ・デミアンがキーや弁、ベロー、エア抜きを加え現在のアコーディオンに近いものをつくった。デミアンは先を見越す頭脳の持ち主で関連するアイデアの特許を押さえたことがのちの楽器づくりに支障をきたしたのだという。しかしデミアンの楽器はあっというま間にヨーロッパ各地に広まった。パリ、ドイツ、イタリア、ロシアそして本拠地のウィーンで。
 1860年代には各地でアコーディオンが作られるようになった。イタリアの青年、パオロ・ソプラーニは巡礼に来た旅人に1台のアコーディオンもらった。1863年彼も独力で作り始めた。パオロソプラーニはHOHNERとあわせ両雄と目される。その誕生である。同じイタリアのやや北のミラノ南部、ストラデーラ村でもダラッペが誕生している。1876年である。イタリアではなんと500社近くのアコーディオン工場が創業し、その多くはすでに廃業してしまっている。
 ブッシュマンから始まった本家ドイツではどうだったのだろうか。ドイツ・トロッシンゲンではハーモニカの大々的な普及に成功したHOHNERの創始者マティウス・ホーナーは、なぜか依然としてアコーディオンの製造には手をつけなかった。2代目エルンスト・ホーナーになった後の1903年に1号機が生まれた。ちょうど105歳になったことになる。

○技術革新をになってきた
 5000人を擁していた往時の盛況を残す旧工場からほど近いところに現在の新工場はあった。両翼300mあろうかという巨大な敷地である。ちょうど東京ビッグサイトの西館くらいにはなるだろうか。西にシュバルツ・バルト(黒い森という名の山容)が、東にはシュバーレン・アルプスに囲まれた高原の地である。標高は600mを越す。初夏の陽射しがのぼりかける朝8時前にはとっくに工場は稼動していた。
 15,000㎡(4500坪)をハーモニカとアコーディオンの製造場所で分ける。アコーディオンに必要な、木材、金属素材、樹脂部品といった資材ヤードに木工工作ヤード、塗装・表装ヤード、研磨ヤードさらに組み立てラインへと続く。数台の仕上がり途中のアコーディオンが台車にのって少しづつ移動していく。それぞれの組立工程では熟練の職人さんたちの熱気があふれていた。その隣に部品ストックがある。おびただしい数の部品が1F2Fに整然と並んでいる。アコーディオン製造部長のファウゼルさんによれば、70000点(工程)の部品、製造手法がデータ保管されている。それを管理するホストコンピューターは厳密に管理され、その修正なしには部品、仕様の変更は一切できないのだという。今も1950年代のMORINOの部品がストックされている。
 修理・調律をする者の立場でみるとHONHNERの印象は革新的な思想、ものづくりにある。たとえばジュラルミン・ボディである。アトランティックをはじめとしたシリーズに使われてきている。丈夫で経年の劣化がなく音量もある。120バスボタンのワンタッチ式ユニット。これは120本のボタンシャフトを1つづつ抜いて修理後並べ戻すという修理屋泣かせの根気のいる仕事を不要にしてしまった。ネジ2本で見事に内部まで分解できてしまう。便利、大胆なアイデアである。音質切り替えのスリットは独自のデザインで、素材にはサビの来ないナイロン樹脂が使用されている。革新のきわめつけはリード革(さぶた革:通称)である。すでに1950年代からHOHNERでは樹脂リードを使用しているようである。本革(当歳鹿)がいいか樹脂がいいか、どちらがいい音がするか意見があるものの、リード弁の安定性でいえば樹脂リードである。キズさえつけなければ長期にわたって使用可能だ。しなりの強さは殆ど劣化しない。湿気も吸わない。カビも生えない。

○検品と繰り返される調律
 工場では一般の職人にまざって「クラフト・マイスター」の資格を持った検品担当者、調律担当者がそれぞれの持ち場で働いている。1次調律されたリードをブロックにワックスづけし、本体のスイッチを調整して出荷まえの検品工程に入る。やはりマイスターであるグンターさんについて検品を教わる。
 検品では鍵盤、バスボタン、ベロー、音質スイッチなどの基本機能のチェック、さらに外観のキズなどをつぶさに調べる。マイスターの眼は鋭い。ほんのわずかな取付けのズレも見逃さない。たとえばグリルのリブ(軸)を飾る金属の細い部品がわずかにずれているだけで、彼はグリルを持ってその製造現場に行き、スタッフに修理を促す。スタッフがいない場合は自分でリベットを打ち直す。
 最後の仕上げが音の検査である。 まずスイッチを入れ替えながら、高音部の高いAから順に弾いて、そのあとオクターブをとる。さらに4度5度の和音で響きを確認し、バスへ。 こちらはA#から3度の対位とメジャー音を押し弾きで鳴らしそれをFまで行く。そのあとマイナーコードを20ボタンとってセブンスも鳴らし、最後にディミニッシュで終わる。
 音のずれ、ゆがみが発見されると楽器ごと調律部屋(ガラス張り)に行って同じように再び調律を促す。こうして1台の楽器が梱包され、出荷ヤードへと運ばれていく。

○HOHNERの調律
 一切特別なピッチ差をつけない、平均律に100%添う方法がHOHNER式の基本である。エッケハードさんはここの調律マネージャーであり自らも毎日調律に明け暮れる。MORINOもGOLAもダイアトニックのコロナも調律する。「徹底的に耳で聴き取ってください。オクターブのにごりをなくしましょう」。思っていた以上にシンプルな発声となる。これが「工場出荷仕様」なのだと言い聞かせながら作業を進める。MORINOもGOLAも出荷仕様におけるピッチなどの差異はない。MMの波は機種やシリーズによって細かく指定されている。「高音部はミドルの強さで、低音部はピアニッシモで風を起こして調律してください」、とエッケさん。何しろ伝統のHOHNERである。あのGOLAさんもMORINOさんも使ったという由緒ある調律機を前にして、主任調律マイスターの目の前でいよいよ私の調律が試されることになった。

投稿者 harada : 2008年10月31日 22:51
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